高齢化の状況におけるUHCのモニタリング

関西地域の医療における高齢者の経済的保護:経済的保護政策・方針の効果的な実施に対する障壁

背景

医療費支払いによる家計の破綻や困窮に対する経済的な保護は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの基本原則です。 日本には、医療費の自己負担による困窮から経済的に保護するための様々な政策や制度があります。 これには、国民皆保険、社会福祉、高額療養費制度、無料低額診療事業および生活保護などの制度が含まれます。こうした対策にもかかわらず、生活保護を受けている高齢者の割合が1995年の1.6%から2015年には2.9%に増加していることからもわかるように、高齢者の経済的困窮は進んでおり、そのために医療を受けられない、または受診抑制行動をとる高齢者が増加している可能性が考えられます。関西には日本全国でも生活保護受給世帯の割合が高い地域が複数存在し、その多くは高齢者が暮らす世帯です。そのため、医療に対する経済的な障壁は、関西地域で暮らす高齢者にとって重要な問題であると考えられます。

目標

医療専門職の診察、診断、治療などによる医療費支払いが困難な高齢者の現状を関西地域で調査します。

既存の経済支援制度や政策を利用できていない高齢者に関して、アンメット・ニーズや政策実装におけるギャップを把握し、その背後にある原因を同定します。

関西地域および日本全体で有効に活用され、効果的な普及がさらに期待でき、他国への示唆にもなりうる政策や制度を同定します。

研究手法

  1. 医療のための経済的な保護政策・制度の対象や、適用範囲などに関する情報は、関西地域の高齢者が現在利用しうるものであるが、それらについて2005 年以降に発行された公文書を中心にレビューし、政策・制度の実施にともなう潜在的な課題を同定しました。
  2. 関西地域全6府県の病院、および自治体、社会福祉協議会、地域包括支援センターに勤める社会福祉専門職を対象に、郵送および インターネットによる質問紙調査を実施しました(2021 年 10 月- 2022 年 2 月)。回答者553 名から得られたデータを分析し(回答率 23%)、高齢者が医療において直面する経済的困難について、よく見られる理由を同定し、社会福祉専門職が利用者に使用しにくい経済的保護制度・事業に関連する要因につき検討を行いました。
  3. 質問紙調査で十分に把握できなかった詳細を明らかにするため、調査回答者から協力者を募り、追加インタビュー調査を実施しました。
  4. Behaviour Change Wheel1  の枠組みを適用して、複合課題をもつ世帯事例における政策の有効な介入ポイントを同定しました。

研究結果

  1. 文献調査から、日本では経済的保護に関する政策・制度、および関連法規が頻繁に改訂されていることがわかりました。また、医療を利用するための経済的な保護は、住宅など他の生活に関連する保護政策と関係するにもかかわらず、十分に統合が図られていないことも明らかになりました。制度自体が複雑であり、高齢者とその家族およびサービス提供者に十分活用されているとはいえません。
  2. 質問紙調査結果からは高齢者の医療における経済的な問題がしばしば複雑化することが示唆されました。その要因として、高齢者やその家族の社会的・精神的な課題が挙げられます。低所得者や支援が必要な人のための無料低額診療事業、国民健康保険法第44条による減額・猶予・免除、成年後見制度など、潜在的に役立つ可能性のある制度・政策がいくつかありますが、本調査結果から、これらの制度が実際には必ずしも十分使用されていないことが明らかとなりました。統計解析からは、社会福祉専門職の性別や勤務経験の長さ、および勤務先の機関の種類などが、いくつかの主要な経済的保護制度の使用されにくさと関連を示すことがわかりました。
  3. 追加インタビュー調査の協力者 20名は、多くが経験豊富な社会福祉専門職(経験年数17 -25 年)で、質問紙調査結果を補強する内容が明らかになりました。高齢者に影響を及ぼす経済的な課題としては、収入レベルが該当するにもかかわらず生活保護の申請をしていない、保険料の滞納により保険対象資格を失うなどの事例を多く認めました。複合的な課題として多く見られた状況は、高齢者自身や同居配偶者が認知症である、社会的に孤立している、主たる介護者がいない等が挙がりました。重要な経済保護制度・政策が使用されにくい主な原因としては、サービス提供が断片化していること、申請手続きが複雑であること、また、制度・政策に関する情報へのアクセスが容易でないことなどが示唆されました。
  4. Behaviour Change Wheel の枠組みを適用することで、支援事業の実装に際し、複数のレベルにおける介入ポイントや対応が、特に複合課題をもつ事例において考えやすくなりました。これにより、医療を必要とする高齢者が利用可能な経済的保護制度や政策の利用機会の増加が期待されます。具体的には、個人レベルの認知機能障害や多重債務;世帯レベルでは独居、貧困、世帯内虐待;地域レベルでは社会的孤立、感染予防知識の不足、通信費不足による支援へのアクセス障害;国の法制度レベルでは住宅確保に関連する身元保証の仕組みの不備やデジタルデバイドへの支援不足などが同定され、各項目が将来の改善のための政策介入ポイントでありうると考えられました。

世界にとっての意義

医療において高齢者に影響を及ぼす経済的な課題は、多くの場合、本人またはその家族が抱える経済面、社会面、精神面における困難により複雑化しやすく、経済的保護政策のみによって解決を図ることは困難です。 個人、世帯、サービス提供者、コミュニティ、公共政策のレベルで、複数の介入を含む包括的なアプローチが必要とされることが考えられます。 同定された重要な課題のひと つは、福祉専門職でさえしばしば既存の経済的保護制度・政策に関する情報を必ずしも十分把握していないということです。 重要な情報には容易にアクセスできるようにし、関連する政策の実際の使用状況を定期的に評価する必要があります。

地元関西にとっての意義

本研究では、関西地域で高齢者が医療を受ける際に直面する制度・政策上のいくつかの課題について同定しました。 社会福祉に関わるさまざまな専門職、地方自治体、医療・介護福祉施設、患者とその家族の間で、より良い調整を図ることのできるシステムが求められています。相談者を十分支援できるよう、福祉専門職の制度・政策情報へのアクセスや教育の機会などを整備することも必要だと考えられました。

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1参考文献:Michie S, Atkins L, West R. The behaviour change wheel. A guide to designing interventions. 1st ed. Great Britain: Silverback Publishing. 2014: 1003-10.

 

 

 

出版物

  • WKC Forum 2022 Report: Systems of financial support in healthcare for families with complex problems and marginalized populations: overcoming the challenges of ‘leaving no one behind [In Japanese]
  • Sasaki N, Rosenberg M, Shin J, Kunisawa S, Imanaka Y. Policy-implementation gaps in the financial protection in health care for older persons: Insights from a cross-sectional survey of local governments, health and social care organizations. [In progress]

プレゼンテーション

  • Sasaki N, Imanaka Y. Challenges to identifying barriers and policy intervention points in relation to the financial protection of older households: applying the Behaviour Change Wheel Framework to the complicated cases experienced by local social workers. 16th Guidelines International Network Conference, Toronto, Canada. 21-24 September 2022. [Poster presentation] 
  • Sasaki N, Imanaka Y. Key challenges to policy and practice related to financial protection in health for older persons: results of a survey of social workers.60th Academic Congress of the Japan Society for Healthcare Administration, Okayama, Japan. 16-18 September 2022. [Online presentation in Japanese]

WKCフォーラム

「複合課題をもつ世帯 周縁化された人々への支援には どのような制度・対策が必要か?~誰一人取り残さない支援へのチャレンジ~」 2022年7月28日  〔オンライン開催(日本語)〕

システマティックレビューとメタ分析:保健医療サービスへのアクセスを妨げる経済的障壁とその結果としての未充足のヘルスケアニーズ

 

 

背景

持続可能な開発目標(SDGs)の下、現在使用されている(保健医療費に対する)経済的保護のモニタリング指標は、どういった経済的障壁によって必要とされる保健医療サービスの利用が妨げられているかという実情を把握しきれていません。家計にとって破滅的かつ困窮化を招くほどの自己負担医療費の発生を示す指標がたとえ低く抑えられていても、それは経済的障壁やその他の要因から、サービスの利用制限やヘルスケアニーズが未充足な結果である場合も考えられます。このようなヘルスケアニーズの未充足(アンメットニーズ)の問題は、保健医療サービスを長期間にわたり頻繁に必要とする複数の慢性疾患を抱えがちな高齢者にとってはさらに深刻です。本研究では、一般年齢層、および、特に高齢者層におけるアンメットニーズのレベルとその事由に着目し、既存の世界規模のエビデンスを統合することを目的としています。

目標

 一般年齢層における自己申告のアンメットニーズの割合を推計し、医療アクセスに対する経済的およびその他の障壁を特定し、さらに人口特性によるアンメットニーズの割合の差異を評価する。

 65歳以上の高齢者層におけるヘルスケアおよび継続的なケア(long-term care / LTC)のニーズに対する未充足率とその事由を評価する。

研究手法

 4種類の電子データベース(PubMed、EMBASE、CINAHL、Web of Science)において、受診控え、LTC、アンメットニーズ、アクセス障壁、および世帯調査分析に関連する用語を組み合わせて文献検索を行いました。 文献の言語、日付、研究対象年齢に制限は設けませんでした。検索結果の文献3915件をスクリーニングした後、条件を満たした114件の研究論文が選定されました。そこから抽出されたデータの対象は、56か国(主に高所得国)の約5800万人で、一部に子供や青年も含まれていますが、ほとんどが30歳以上の成人でした。

エビデンスの統合は、変量効果メタ分析を使用して行い、アンメットニーズ発生割合の統合推定値を得ました。

ヘルスケアだけでなくLTCにも認められるアンメットニーズの発生割合を調べるために、65歳以上の高齢者層を対象にサブグループ分析を追加で実施しました。高齢者層のサブグループ分析では、65歳以上に関するデータを有する79件の研究に焦点を当て、LTCの未充足ニーズに関連する14件の研究もレビューに加えました。

研究結果

 ヘルスケアのアンメットニーズを測定するために使用される調査質問は研究ごとに異なりました。標準化された定義が存在しないことから、この研究で用いた「ヘルスケアのアンメットニーズ」の操作的定義は、怪我や病気などでヘルスケアの必要が生じたときに受診を試みたかどうかに関する調査質問への否定的な回答としました。

全体分析の結果からは、メタ分析の調査対象の9.0%が、必要時のヘルスケアに対して回避(受診控え・放棄)や遅延をしたと報告していることが分かりました。ヘルスケアニーズが未充足である理由としては、医療費の負担(20.6%)に次いで、必要とする医療の可用性(17.0%)、アクセスのしやすさ(12.2%)、受容性(8.9%)があげられました。費用が原因で未充足となるヘルスケアニーズの統合発生率にみられる統計学的に有意な相違点は以下のとおりです:教育レベル(初等教育以下 [14.3%] – 中等教育以上 [7.8%])、主観的健康状態(不良 [24.6%] –  極めて良好/良好 [15.5%])、保険加入の有無(無保険者 [21.9%] – 被保険者 [15.9%])、経済状態(最貧困五分位 [30.2%] – 最富裕五分位 [8.4%])。

メタ分析の対象のうち、65歳以上の高齢者の10.4%がヘルスケアニーズの未充足を回答していました。これは、31〜64歳の成人で4.9%の割合を上回る結果でした。高齢者のアンメットニーズの理由としては、医療費(主に治療費)の負担(31.7%)が多くを占め、次いで必要とする医療の受容性(10.4%)、アクセスのしやすさ(6.2%)、可用性(4.9%)が示されました。高齢者のアンメットニーズの統合発生率にみられた統計的に有意な差異は次のとおりです:性別(男性 [10.9%] – 女性 [14.4%])、教育レベル(初等教育以下 [13.3%] – 中等教育以上 [7.5%])、主観的健康状態(不良 [23.2%] – 良好 [4.4%])、保険加入の有無(無保険者 [27.7%] –被保険者[9.0%])、経済状態(最貧困五分位 [28.2%] – 最富裕五分位 [7.1%] )、調査年(2001~2010 [4.3%] – 2011~2019 [10.8%])。

LTCの未充足ニーズの測定についても、標準化されていないことが分かりました。 本研究においては、メタ分析の目的として「LTCのアンメットニーズ」を以下の調査質問に対する否定的回答として定義しました:[日常生活動作(ADL)と手段的日常生活動作(IADL)の自己申告により定義される自立機能の低下に対処するための支援が受けられているかどうか]。平均すると、LTCのアンメットニーズを回答した高齢者は25.1%(14件の研究)で、次のような違いがみられました:自立機能レベル(日常生活動作(ADL)の低下 [23.8%] – 手段的日常生活動作(手段的ADL)の低下 [11.0%] )、居住地域(農村部 [51.1%] – 都市部 [48.0%])。

世界的な示唆

健康に関する経済的保護の達成に向けた進捗状況のモニタリングに用いられているグローバル指標は、ヘルスケア利用の経済的影響を捉えるに留まり、アンメットニーズに起因して医療費支出が少ない状況については全く把握できていません。 多くの国では、ヘルスケアのアンメットニーズに関するデータが極めて乏しく、高齢者など亜集団のアンメットニーズを詳しく把握している調査数はさらに少ないのが現状です。 アンメットニーズの測定を既存の世帯調査に組み込むことでこのギャップを埋めることが望まれます。一方で、国ごとに状況を比較するためには、ヘルスケアおよびLTCに対するアンメットニーズの標準化された定義の必要性が課題としてあげられます。

地元関西にとっての意義

関西地域に暮らす高齢者のヘルスケアおよびLTCに対するアンメットニーズについては、公表文献による情報が不足しています。このことから、WKCは、利用可能な世帯調査データを用いた研究を実施中で、他の年齢層や他の地域と比較しながら関西の高齢者のアンメットニーズを新たに評価することを目指しています。 また、関西において、医療ソーシャルワーカーが高齢者のヘルスケアとLTCに対するアンメットニーズにつながる主要な課題としてどういったことを認識しているかについても定性的に考察します。

保健医療が原因となる経済的困窮に関する各国の家計調査データの年齢構成別解析

背景

経済的保護はユニバーサル・ヘルス・カバレッジの重要な側面です。2030年に向けた持続可能な開発目標(SDGs)、ならびに、WHOグローバル・インパクト・フレームワークの進捗状況を評価するために、世界、地域、国のレベルで経済的保護に関するモニタリングが行われています。2021年にWHOと世界銀行により発表されたGlobal Monitoring Report on Financial Protection in Health(非公式訳:保健医療分野における経済的保護に関するグローバル・モニタリング・レポート)では、初の試みとして、年齢構成の異なる世帯を対象に経済的保護に関するデータの比較が行われることになりました。本研究の手法により、ケアを必要とする人の年齢に関連するさまざまなレベルの経済的保護について一定程度の状況把握が可能になります。これは、分析単位として世帯を用いる経済的保護の標準的な評価基準に年齢構成別の尺度を適用するという点で革新的な分析アプローチであるといえます。 本研究の結果は、高齢者のケアのための経済的保護に関するナレッジギャップを埋めるのに役立つことが期待されます

目標

WHO地域を網羅した国レベルでの経済的保護に関する新たな世帯年齢構成別分析を行い、2021年発表の保健医療分野における経済的保護に関するグローバル・モニタリング・レポートに反映する。

研究手法

  • 家計調査、家計生活水準調査、家計収入・支出調査、世帯社会経済調査など、この分析に適した各国最新の代表的な全国データを特定しました。
  • パンデミック以前の、破滅的医療支出および困窮化を招く医療支出の発生率を推定しました。この分析では、SDG指標3.8.2の評価方法にしたがい、家計の総消費または収入の10%を超える医療費を破滅的医療支出と定義しています。困窮化を招く医療支出は、医療費が原因で消費中央値60%に位置する相対的な貧困ラインをさらに下回る人口の割合をもって定義されます。分析は、北米とオセアニアを除くすべての国連地域92か国から入手可能な最新のデータに基づいています。これらの国々の人口は2017年の世界人口の53%を占めましたが、その中で下位中所得国(インドを除く43%)や高所得国(21%)は相対的に少なかったです。各国から入手可能な最新のデータの調査年度の中央値は2014年のもので、2009年より前のデータポイントは使用されていません。
  • ライフコースアプローチを用いて、年齢構成が異なる世帯間の結果を比較しました。具体的には次のとおりです:少なくとも20歳未満の若者が1人と20〜59歳の成人が1人いる若い世帯。20〜59歳の成人のみの世帯。少なくとも20歳未満の若年者が1人と20〜59歳の成人が1人および60歳以上の高齢者が1人いる多世代世帯。少なくとも60歳以上の高齢者が1人いるが20歳未満はいない高齢世帯(高齢者のみの世帯を含む)。
  • 分析結果について、6つのWHO地域事務局すべてを通じて国別協議を実施しました。
  • 2021年にWHOと世界銀行により発表の保健医療分野における経済的保護に関するグローバル・モニタリング・レポートには本研究の発表の章が設けられ、地域的および世界的な研究知見のナラティブ統合とともに統計的要約をまとめました。

研究結果

  1. 92か国のデータに基づく解析によると、平均して、60歳以上の高齢者が少なくとも1人いる世帯では破滅的支出の発生率が最も高いことがわかりました。この傾向は、世界平均が全人口比13.2%であるのに対し、上位中所得国およびアジアの国々では38.3%に達しています。
  2. 困窮化を招く医療支出の発生率は、多世代世帯(少なくとも20歳未満の若年者が1人と20〜59歳の成人が1人および60歳以上の高齢者が1人いる世帯)において最も顕著で、対全人口で12.7%の世界平均と比較して、高位中所得国およびアジアの国々では39.9%にも達します。

世界的な示唆

本研究の結果は、世界的に、高齢者のいる世帯は総支払能力の10%以上を保健医療に費やす可能性が最も高く、この支出パターンはアジアの国々で最も顕著であることを示唆しています。ただし、このレベルの医療費は必ずしもこういった世帯を困窮化させているわけではありません。なぜなら、10%の閾値は、高齢者がいる世帯にとって負担困難な医療費を示しているとは限らないからです。本研究の分析データは、WHOの194加盟国中92か国からのみ入手可能であったため、世界人口の約半分しか網羅されておらず、特に北米とオセアニアおよび高所得国に対する評価が不足していることに留意が必要です。保健医療の利用における経済的な影響が世帯の年齢構成によってどのように変化するかをより包括的に把握するためには、より多くの国を対象としたデータの可用性の改善に向けた世界的な取り組みが求められます。この種のデータは、保健医療ニーズの実際のレベルや世帯の支払い能力に応じて、経済的保護の手段と政策の対象および調整をより適切に見極め整えるために有用です。また、2023年に発行予定の次のグローバル・モニタリング・レポートにはCOVID-19パンデミックの影響が盛り込まれる予定のため、より直近のデータが必要となります。

地元関西にとっての意義

本研究結果から、関西の高齢者世帯も、若年世帯に比べて家計支出における保健医療費の割合が高いと考えられますが、そのために、高齢者世帯に困窮化が生じているかどうかは不明です。医療費に関するデータだけでは、保健医療の利用が世帯に与える実際の経済的影響を評価するには不十分です。WHO神戸センターは、関西の高齢者を対象に、既存の家計調査データを分析して、自己負担医療費の水準だけではなく家計の財源も特定することにより、経済的困窮を招くような保健医療費発生の可能性をよりよく把握するための研究を実施しています。本研究は、経済的保護が最も必要とされる世帯をより適切に特定するための地域のプログラムや政策に資することが期待されます。

出版物

本研究の成果は、 Global Monitoring Report on Financial Protection in Health 2021の第1章第2節『Who experiences financial hardship? A focus on age(誰が経済的困窮に陥っているのか。年齢に着目して)』(17~21ページ)にまとめられました。

高齢者におけるヘルスケアニーズとサービス・カバレッジの公平性:概念的文献のスコーピング・レビュー

背景

国際社会は、持続可能な開発目標ならびに2030年までのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の段階的実現を推進しています。そのため、多くの国では、人口高齢化の状況に応じた手法でその進捗状況を測定しモニタリングするという課題に直面しています。高齢者の多様なニーズにみられる違いや、高齢層と他の年齢層のニーズの違いなど、高齢者のニーズを考慮することが肝要です。このプロジェクトの目的は、人口高齢化の観点からUHCモニタリングの促進を図るにあたり、高齢者のヘルスケアニーズとサービス・カバレッジの公平性を検証するために有益なエビデンスを提示することです。

目標

  1. 概念的および理論的文献のグローバル・スコーピングレビューを実施して、特に高齢者について、サービス・カバレッジにおける公平性を評価するためには何を測定すべきかを特定すること。
  2. 第二の目標として、日本の高齢者のヘルスケアのサービス・カバレッジに関する文献のレビューを実施し、公平性がどのように概念化されているかを把握すること。

研究手法

  • 関連する概念的および理論的文献は、測定基準、モデル/フレームワーク/理論、高齢者、公平性/格差、そして、カバレッジ/利用/アクセス/ニーズのシソーラスとフリーテキストの用語を組み合わせて検索を実施しました。公開および未公開(灰色)の関連文献を特定するために使用したデータベースは次のとおりです:CINAHL(Ovid)、MEDLINE(Ovid)、PsycINFO(Ovid)、Social Science Citation Index(SSCI)(Web of Science)、Global Index Medicus、BIREME、LILACs、SCIELO、CiNii、医中誌Web。日付や言語の検索制限は設けないこととしました。
  • エビデンスベースには、年齢別のフレームワーク、ならびに、高齢者または特定の高齢者グループのみに該当する、また、社会的ケア(継続的なケア)のサービスやヘルスケアサービスを対象とした実証データや文献が含まれました。
  •  データ分析から、高齢者の立場から見たヘルスケアサービスの公平性、アクセス、ニーズについて、また、高齢者に関する公平性のモニタリングで考慮すべきことを示すメタフレームワークを構築しました。データ統合では、政策的含意を究明するために、新しい概念フレームワークの研究結果をどの程度既存の関連政策の枠組に統合できるかについても検討しました。
  • 日本の研究では、国内の書誌データベースであるCiNiiと医中誌Web、および、国際的データベースであるPubMedとWeb of Scienceで検索を実施しました。データの図表化と統合はフレームワークの適応版に基づいて行われ、日本に関連する文献のより細密な分析を可能にしました。

研究結果

  • 世界規模の研究では、グローバルなエビデンスベースを検索した結果、10,517件の文献が検出され、この中から32件の関連文献が研究対象として特定されました。各文献において高齢者のヘルスケアニーズとサービス・カバレッジの公平性がどのように概念化されているかに基づいて、メタフレームワークが構築されました。このフレームワークにより特定された要因は次のとおりです:受容性、手頃な価格、適切性、可用性とリソース、患者の認識、意思決定能力、ニーズ、個人的・社会的・文化的状況、および、物理的なアクセスの容易度。集団としての高齢者の中で、また、高齢者層の内部でみられる、多疾患罹患、複雑なケアの必要性、キャパシティとアクセスに関して生じる問題の割合が大きいことから、これらの要因が、一般的なアクセスフレームワークに比して、本研究により構築されたフレームワークにおいては極めて顕著に把握できることを示しています。
  • 日本の研究では、5,880件の文献が特定されました。そのうち、レビュー対象となった50件の研究は、9つの公平性領域を特定するフレームワークに従って次のように分類されました:経済的格差と手ごろな価格、サービスとリソースの可用性、地理的・地域的格差、文化的・心理的障壁、人種・民族格差、ジェンダー格差、時代・コホート格差、患者の意思決定能力、患者の知識・意識。レビューにおいて、日本の高齢者のヘルスケアアクセスの公平性に関する議論では、主に経済的障壁、サービスの可用性、地理的・地域的格差に関連する問題に焦点が当てられていることがわかりました。

世界的な意義

高齢者のヘルスケアニーズおよびサービス・カバレッジの公平性を測定する方法は開発の途上にあります。本研究により開発されたフレームワークは、高齢者における公平性を測定するためには、一般的なアクセスフレームワークの範囲を広げる必要があることを示唆しています。高齢者の意思決定能力、個人的・社会的環境、併存疾患による複雑なケアニーズなどの指標を取り入れることにより、より正確なフレームワークの構築が可能になります。本研究により開発された概念フレームワークは、高齢者の医療・社会的ケアにおける未充足のニーズを定量化するための多国間に渡る横断研究および縦断研究に活用されています。

地元関西にとっての意義

関西地域の高齢者を対象にヘルスケアのアクセスおよびカバレッジの格差を調査した研究はほとんど見られません。ただし、一部の研究やデータベースには、関西地域の府県や市町村と他の地域の自治体との比較が認められます。このような既存の研究やデータの分析を進めることにより、関西地域において、高齢者への対応を含め、サービス・カバレッジやヘルスケアアクセスの公平性に関してより正確な把握が可能になります。本研究の結果を継承して、WKCは、他の年齢層や日本国内の他の地域との比較による、関西地域の高齢者における保健医療による経済的困窮および未充足のニーズを把握するための、複数の全国的な既存家計調査のデータ解析を実施しています。

出版物

Carroll C, Sworn K, Booth A, Tsuchiya A, Maden M, Rosenberg M. Equity in healthcare access and service coverage for older people: a scoping review of the conceptual literature. Integrated Healthcare Journal 2022;4:e000092. doi: 10.1136/ihj-2021-000092

WHO神戸センター:WKCエビデンス・サマリー:高齢者のヘルスケアへのアクセスに関する公平性評価 のための重要な概念. 2021年9月. (下記PDFダウンロード参照)

高齢者のケアに関連するユニバーサル・ヘルス・カバレッジの測定: イランへの適用を考慮したグローバル・スコーピングレビュー

背景

人口高齢化は世界的な傾向であり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の段階的な達成を目指す保健医療制度の役割、すなわち、すべての人々が経済的困窮に陥ることなく必要な医療サービスを確実に受けられるようにするための機能に大きな影響を及ぼします。若年者と比較すると、高齢者の健康ニーズやサービスへのアクセスに関する課題には大幅な違いがあるためです。イランは、次の10年で高齢者の数に急激な増加が見込まれるWHO東地中海地域の国のひとつです。イランに代表される多くの中所得国では、今後、人口高齢化が進む中、UHCの段階的な実現に向けた保健医療制度の開発を導くためのモニタリングアプローチが必要とされます。

目標                                                                                                                                                                          

低・中所得国における高齢者のケアに焦点を当て、UHCの進展状況をモニタリングするための国レベルのフレームワークを開発するとともに、イランにおける妥当性と実用性を評価する。

研究手法                                                                                                                                                                             

  • 世界的に公開されている文献を対象に、2つの異なる検索戦略を合わせて用いました。初めにUHCと高齢化に関する測定とモニタリングの概念をより広く把握することを目的とし、次に、高齢者のケアの観点から、UHCのターゲットであるサービスのカバレッジおよびアクセス、経済的保護、サービスの公平性と質に焦点を当てました。

  • Scopus、ISI Web of Knowledge、PubMed、Ovid(コクランによるシステマティックレビューのデータベースを含む)、ScienceDirect、および灰色文献の検索を行い、文献の公開時期や言語に制限は設けませんでした。主な採択基準は、当該研究において、高齢者が必要とするケアの概念と、そのようなケアに関連するUHCの測定または指標、これら両方に関する記述があることを必須としました。合計101の文献が全文レビューの対象となり、そのうち分析のための採択基準を満たした文献は35件でした。

  • 文献レビューの結果を受けて、イランの研究者と地方政府および中央政府当局の代表者を交えた専門家パネルと2回の協議を実施し、文献レビューによって特定されたテーマと指標を測定するにあたりイランにおける妥当性と実用性について検討しました。

研究結果                                                                                                                                                                

  1. 総じて、レビューでは、人口高齢化を考慮してUHCを測定するための既存のフレームワークが公開されておらず、高齢者のケアのモニタリングに関連する指標についても世界的なコンセンサスが欠けていることがわかりました。

  2. レビューした文献から抽出された指標のうち、高齢者のケアにかかわるものとして、25はケアの質に、22は経済的保護に、10はサービスのカバレッジとアクセスにそれぞれ関連がありました。その他は、人口の健康状態、UHC、または保健医療の公平性に関するより一般的な指標でした。

  3. イランの専門家パネルは、既存の健康情報システムや調査の制限、または高齢者のケアに関連する公的制度や構造の欠如などにより、国または地方自治体レベルで測定するのが現実的ではない指標を特定しました。とりわけ、国に継続的なケア(long-term care: LTC)のための保険制度または正式なLTCシステムが存在しない状況で、LTCに関する指標を測定する際の課題について言及しました。

世界的な示唆

高齢者特有のニーズの測定にあたっては、世界的に合意されたフレームワークと指標の欠如が認められす。このことは、UHCの進展を評価するにあたり、今後の分析や各国の比較可能なデータの体系的な収集の妨げになることが懸念されます。 有用性が期待される指標はあるものの、さまざまな状況における適用性には追加的な実証研究が求められます。正式なLTCシステムを持たない国に対しては、既存の関連指標の応用に関するガイダンスが必要と考えられます。

地元関西にとっての意義

関西地域の地方自治体は、定期的に収集された行政データをもって保健医療やLTCサービスに関する業務評価を行うことが一般的です。しかしながら、行政データは、サービス使用率など既存の政策やプログラムにおける特定の側面に限定される傾向があるため、既存の政策やプログラムの影響評価や将来的なニーズの把握を図るには不十分な場合があります。この研究を通じて世界の科学文献から特定された指標は、補足的な情報を提供することが期待されます。したがって、関西地域の地方自治体においても、本研究から得られた知見の適用をそれぞれの目的に応じて検討することが可能です。その際、研究者やその他の地元関係者による協議を通じて、地方自治体がどの指標を適応させ使用するかについて、十分な情報に基づいた決定を行うことが有益であると考えられます。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジのモニタリングシステムのためのライフコース・アプローチを用いた概念枠組み

背景                                                                                         

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に対するライフコース・アプローチは、UHCの実施とモニタリングに資する手法として提案されてきました。このアプローチでは、出生から、新生児期、幼児期、小児期、青年期、若年成人期、高齢期に至るまで、生涯にわたる人々の健康と福祉の持続的な改善を想定しています。これらの段階はすべて、社会的、経済的、文化的な背景により形成されます。しかし、UHCをモニタリングするための既存の指標は、母子保健や感染症などアクセスが容易な評価基準に重点が置かれており、高齢化に直面する多くの国々に関わるサービスの提供範囲や経済的保護の問題についての指標は不足しています。

目標                                                                                                    

ライフコース、高齢化、UHCに関連する既存の概念と枠組みのナラティブ統合を行い、ライフコース・アプローチによるUHCの進展をモニタリングするための枠組みの開発に役立てる。

研究手法                                                                                            

  • ライフコース、高齢化、UHCに関連するキーワードを使用してPubMed、Web of Science、およびGoogle Scholarで検索を行い、未公開の灰色文献も対象としました。検索対象は、過去10年間(2009〜2019年)に英語で執筆され発行されたものに限定しました。
  • 最初の検索により、健康に対するライフコース・アプローチに関する既存の枠組みが5つ特定されました。これらを1つの概念枠組みに統合して、次に実施したより包括的なスコーピング・レビューの基礎としました。つまり、このスコーピング・レビューでは、統合した枠組みの各要素を支持するエビデンスに焦点を当てました。この段階で、理論的研究やライフコースの前期にかかわる研究にとどまらず、高齢期も含めたライフコース・アプローチの応用研究に関する文献も結果に含まれるようにするため、政策/介入および機能/障害に関連するキーワードも検索語に追加しました。この検索により514件の論文が検出され、このうち84件を最終の分析対象に含めました。

研究結果                                                                                            

健康へのライフコース・アプローチに関する既存の概念枠組みは、ライフコースのあらゆる段階が後の健康に与える影響、およびそれぞれの段階の累積効果を明らかにしています。その一方で、ライフコース・アプローチに関する研究は、若齢期に焦点が当てられる傾向にあります。疫学研究のエビデンスから、若年齢で健康にとって有益・不利益な事象(教育や栄養不良など)に暴露されると、健康や機能に対する影響がその後長期にわたって認められることが明らかになっています。関連する応用研究を検索対象としたにもかかわらず、政策に関連する論文は9件のみで、残りの75件は疫学研究に関するものでした。政策文書から抽出されたテーマでは、ライフコース全体にわたる統合ケアの提供、高齢者を対象に含めた予防接種の拡充、および高齢者にやさしい保健医療の提供の重要性が強調されていました。高齢化に関連する政策のモニタリングや評価のための適切な測定基準を考察している研究や、低・中所得国における関連する政策やプログラムを記述している研究はほとんどありませんでした。

世界的な示唆                                                                         

ライフコースに関する疫学研究は、高齢化が進む状況下の健康戦略の一環として、若齢期の介入に対する投資を行う科学的根拠を提供します。しかし、それは高齢者のニーズに直接対応する老齢期の介入への投資に代わるべきであることを意味するものではありません。ライフコースに沿ったリソースの適切な配分に役立てるため、より多くの研究をとおして、さまざまなライフステージでの介入による影響を相対的に評価することが求められます。政策やプログラムに対するライフコース・アプローチの実用化に関しては、特に低・中所得国でさらに研究を進めることにより、このアプローチを採用した際の実際の利益や課題についての知見が得られることが期待されます。

地元関西にとっての意義​                                                                  

ライフコースの概念は、人口高齢化を考慮した保健医療制度開発に向けて、地方自治体が主導して分野・部門横断的な協働を促すための共通の枠組みとして有用であると考えられます。それにより、さまざまな年齢層が関わる課題に取り組む部門間の相互関係や、協働の可能性を明確にすることができます。また、新たな多部門連携政策や保健医療関連プログラムの達成により得られる相乗効果やその効率性を特定することにも役立ちます。また、ライフコースの中で、関心や投資が十分に向けられていないライフステージを特定することにもつながります。さらには、地域の状況を把握することにより、人口の高齢化を考慮したUHC実現に向けて、その進展を評価するためにライフコース全体を通して追跡すべき主要な指標の開発と標準化にも資すると考えられます。

出版物                                                                                             

Developing a conceptual framework with a life-course approach to support universal health coverage monitoring systems. WHO Centre for Health Development (WHO Kobe Centre - WKC) Working Paper (#K18021)

Melinda G, Ono R, Tsuboi Y, Chaiyawat P, Kawaharada R, Perrein E, Rosenberg M, Agustina R, Fukuda H. Applying a life course approach to health service coverage monitoring in countries undergoing population aging: A scoping review. - PLOS ONE.(査読中)