Archived Research Projects
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介護分野における外国人技能実習のための ICF(国際生活機能分類)を基盤とした 評価ツールの開発

背景

障害や慢性疾患を抱える人の増加にともない、良質で費用効率の高いサービスへのアクセスを確保するためには介護専門職の増員が必要です。東アジアにおいて既に深刻な介護労働者不足に直面するなか、日本では団塊の世代が75歳以上になる2025年までに、さらに38万人の介護労働者が必要になります。この需要拡大に対処するため、各国では外国人の医療労働者の採用数を増やしたり、実習を行ったりしています。例えば、カナダと米国では、介護に携わる労働人口全体のおよそ5分の1を外国人が占めています。

日本は経済連携プログラムの一環として、看護および介護に従事する外国人労働者をインドネシアやフィリピン、ベトナムから受け入れています。最近では、外国人技能実習制度を拡充して、日本の医療介護産業で働くことを希望する外国人医療介護労働者の実習を対象に加えるとともに、国際協力プログラムの一環として、日本の継続介護の分野での経験を諸外国に提供しています。医療介護に携わる外国人労働者の増加にともない、実習生に介護技能を効果的に移転する実習制度の確立が不可欠になっています。

目標

日本の外国人技能実習制度における介護技能の移転を評価するため、国際生活機能分類(ICF)に基づいた評価ツールを開発し、その有効性を立証する。

研究手法

新しい評価ツールは、現行の外国人技能実習制度評価ツールに基にICFを組み込んで構築され、看護師および医師からなる実務者委員会からの意見を取り入れて開発されました。

評価手段の包括性と運用管理に想定される課題を特定し、ツールを適切に修正するため、外国人技能実習制度の関連施設で予備テストを行いました。このツールにより収集された情報は、実習生の介護技能、被介護者に必要な介護、技能実習の背景、および雇用環境です。

実習後、介護技能を習得できたかどうかについては、指導員のサンプルごとに定性的に判定しました。さらに、定性的なフィードバックを得るため、施設管理者、指導員および外国人実習生を対象に半構造化面接を行いました。

研究結果

評価ツールは100か所の施設でフィールドテストを行い、外国人技能実習の指導員300人を対象としました。多くの指導員や職員からは、介護技能実習システムの4つの要素にまたがる38にわたる項目を用いることは困難であることが指摘され、評価ツールは最大でも25項目まで縮小すべきとの提言が得られました。参加者からは、ICFのコンセプトおよび介護能力の格付けとの関連性を明確にするためのガイドブックがあれば有用との提案がありました。さらに、実習生によって基本となる技能水準が異なるため、評価ツールはさまざまな基本水準から実習生の成長を測れるよう、微妙な差異への対応が求められることも分かりました。

意義

本プロジェクトでは、日本の外国人技能実習制度における介護技能の移転を評価するため、ICFに基づいた評価ツールを作成しました。この新ツールはWHOのICFを基に組み立てているため、他国、特に外国人の医療介護労働者の雇用を検討している国においての活用が見込まれます。この研究の成果は、高齢者介護の必要性、また、外国人労働力へのさらなる依存が予測されるなか、急速な人口の高齢化が進む国々においてはとりわけ広く影響を与えることが期待されます。

高齢化するアジアの技術的・社会的イノベーション

 

この研究プロジェクトでは、東アジア主要国の高齢社会を比較しながら、アジア地域の人口高齢化と関連政策課題を研究します。具体的には、アジアの主要な高齢化社会における公共政策の動向調査、各国の高齢化対応施策の事例紹介、将来的な人口高齢化課題に対応するための公共施策立案のエビデンスベースの検討などです。

具体的な目標は、既に高齢化が進行している都市の教訓や成功事例を高齢化しつつあるアジアの他の都市にも転用していくことです。

WHO神戸センターは高齢化するアジアにおける技術的・社会的イノベーションに着目しています。

健康な高齢化を支える地域レベルの社会的イノベーション(CBSI)

高齢化の進行に伴い、高齢者が直面する多様で複雑なニーズに保健制度としてどのように対応していくかが世界各国の課題となっています。それは先進国においても発展途上国においても同様です。そこで本研究では「健康な高齢化を支える地域レベルの社会的イノベーション(CBSI)」を活用することで、地域レベルでのケアを通じて高齢者の健康とウェルビーイングを向上することができるのではないかと考え、14カ国でケーススタディを実施し、下記の項目について検討を進めました。

1)         CBSIとは何か?

2)         CBSIは健康な高齢化の促進に有効か、費用対効果は高いのか?

3)         どのようなモデルや類型があれば実施現場のCBSIに対する理解を深めることができるのか?

 

結果

本研究では CBSIを高齢者自身が、a)自分や周りの高齢者をケアすることが「できる」という自信につながり、b) ウェルビイングを維持し、c) 社会とのつながりや社会的包摂につながる-地域レベルの取り組みと定義しました。また、本研究においてCBSIの「健康」への影響を検討する上で、「健康」という概念には、身体的、精神的な「健康」からもう少し広範な「ウェルビイング」を含む幅広い概念として使用しました。

CBSIの効果に関しては、以下のことが明らかになりました。

  1. CBSIの健康への影響を検討する中で、個人や地域にとって有益な効果には心理社会的なものが多いことがわかりました。例えば、社会的に孤立してしまった高齢者の地域参加・社会復帰などがあげられます。
  2. 高齢者が参加し(エンゲージ)、自立して活動してもらう(エンパワーする)ことで、CBSIは人間中心のサービスとなることがわかりました。例えば、医療・社会的ケアを受ける際に高齢者や家族が選ばなければならない複雑な選択肢について解説する情報や啓発活動などが役立ちます。また、同様に、CBSIを通じてインフォーマルな介護者(その多くは女性)を支援することができます。

CBSIをさらに大規模に公平に実施していくためには、いくつかの課題が見つかりました。多くのCBSIの運営をボランティアや高齢者に頼ることが多く、身近な保健制度・社会福祉制度との連携は限られています。加えて、戦略的な計画策定や、長期的な財源の確実な調達なども十分ではありません。 また、今回の研究では、調査対象のCBSIのモデルが多岐にわたり、その幅広いモデルを適切にモニタリングし、評価するための手法が確立されていないため、費用対効果の評価には至りませんでした。

今回調査したCBSIは、それぞれが異なる目的やスケール、実施環境、活動内容、ガバナンス制度、財源を持ち、ばらつきがありますが、「エンパワーメント」、「保健・社会福祉制度との連携」、「スケール、規模」、「複雑性」などに基づいてCBSIのモデルを分類することができます。今回の研究では以下のとおり4つに分類しました。

 

今後の方向性

CBSIは多くの場合、地域で求められているサービスを補完する地域レベルの取り組みとして始まります。しかし、多くの部分をボランティアに依存するため、長期的な継続が困難となる場合があります。国や自治体が高齢者のニーズを把握し政策に展開していくためにも、CBSIの保健部門との連携は大変重要となるでしょう。今後の研究ではCBSIの一般化、妥当化、反復化、大規模化の可能性を評価するため、地域レベルのサービス提供におけるイノベーションを重視していきます。  

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)推進のためのリーダーシッププログラム

高齢化の状況は国によってさまざまですが、高齢化をすでに経験している国であっても、これから迎える国でも、高齢社会が保健・福祉制度に与える影響が何かを十分に把握できていません。そこで今、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)実現に向けて保健制度の強化に取組むことが、現行の制度を抜本的に変革し、将来に備える良い機会となります。そのためには公平性の確保が重要で、部門横断的な取り組みと地域社会の巻き込みが必須になります。 各国がまだ高齢化対策の初期段階にあることを考慮すれば、新たな保健制度の設計、サービス提供、財源確保に関する見通し(ロードマップ)の策定を進めるチャンスと捉えることもできるのです。

本プログラムでは、各国の担当者(個人および担当チーム)を対象としたリーダーシップ・トレーニング、連携強化支援、結果指向の共同行動イニシアチブの策定などのプログラムを提供し、各国のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)アジェンダの推進と加速を後押ししていきます。そして、各国の政治経済制度を方向づけ、「ノウハウ」を明確にすることに主な重点を置いています。

このプログラムは神奈川県との共同開催で、特に低・中所得国のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)分野のリーダーを対象として将来の政策オプションに関するエビデンスやデータ、情報、事例を共有する機会を提供します。

プログラムの目標は下記のとおりです。

1. UHCの実現・人口高齢化に対応する新制度への改革を主導、推進、設計、実施する国レベル・地方レベルの意思決定の共有する。

2. どうすれば高齢化社会のニーズに保健制度が対応できるか日本およびアジア諸国がそれぞれの教訓や知見を共有する。

3. 各国における行動計画(またはロードマップ)の策定を支援する。

4. 高齢者を支える保健・福祉制度設計に必要な要素(後述)に関わる高齢先進国(日本、シンガポールなど)の教訓・事例やWHOの知見を提示する。a) 必要なサービスの選定、b) 提供システムのモデル(および各国のニーズに合わせた応用)、c) 財務戦略、d) 保健医療従事者に及ぼす影響、e) 技術の利用、f) 実現するためのガバナンス戦略。

医療技術評価:高齢者のための医療技術の優先付け基準の開発

 

近年、高齢者の健康増進のために多くの新技術が開発されています。本報告書では、特に低・中所得国の機能的能力の低下に直面する高齢者のための医療技術を政策的に選定する際の優先付けの基準を明らかにします。また、ホライズン・スキャニング・システムにこの基準を適用し、高齢者にとって有益性が高く見込まれる医療技術を評価します。

手法                                                                     

2000年1月1日から2017年9月1日の間に発表された関連文献をMEDLINE(医療文献検索)、EMBASE™(薬学・医学文献検索)、コクラン・ライブラリーなどの主要な学術データベースから検索し、さらにGoogleおよびGoogle Scholarの検索でこれを補い、迅速レビューを実施しました。また、既存のホライズン・スキャニング・システムのレビューを行い、新たな医療技術の優先付けにこれまで使用されてきた基準およびプロセスを検討しました。これらをもとに作成した基準を、カナダ医薬品・医療機器審査機構(CADTH)が一般公開している医療技術リストと照らしました。リストには2016年後半から2017年前半に特定された66種類の新たな医療技術が挙げられましたが、CADTHが挙げたリストの中から高齢者に有効な技術に絞りこんで再評価した結果、25の技術が選別されました。そして、それらを高齢者用の医療技術の優先付け基準に照らして検討しました。

結果                                                                     

高齢者向け医療技術の優先付け基準を高齢者のニーズ、臨床的価値、費用、科学的エビデンスの有無、公平性・平等性、個人の幸福、患者の自律性、文化の8つの領域に分類することができました。判定プロセスの結果、高齢者の健康と生活の質を改善する可能性がある6つの医療技術を特定しました。

考察・結論                                                              

本研究で特定した基準は、心身の能力低下を経験している高齢者のニーズを反映するとともに、新技術導入のさらなる促進に影響を与える要因についても示唆しており、先進国と途上国いずれにおいても、新技術に関する情報を集めた多様なデータ源に適用することができます。また、本報告書の知見は、高齢者人口に対する今後の医療技術優先付けプロセスに活用できます。

今後、さらにこの基準を改良し、優先付けプロセスを決定していくためには、さらなる研究を実施し、イノベーションが最も求められる保健課題を明らかにする必要があります。

 

高齢者にやさしい環境のための健康評価指標

本プロジェクトでは、年齢に関わらず誰もが住みやすい環境づくりを推進し、「エイジフレンドリーシティ(高齢者にやさしい都市(AFC))」を具現化するための政策について評価し、研究を実施しました。この研究によってエビデンスが強化され、社会が一体となり、複数部局が協力、連携しながら健康な高齢化のための介入策を進めていくための基礎を築きました。この取り組みはWHO神戸センターが2015年に発行した『Measuring Age-friendliness: A Guide to Using Core Indicators(エイジフレンドリーシティ評価:コア指標に関するガイド(英語版)』に基づきます。本プロジェクトの最終年となる2017年の具体的な活動は、論文発表や国際会議・学会での講演、研修、コア指標の周知やAFCの啓発などがあげられます。

エイジフレンドリーな環境づくりに関するWHOの取り組みについてはこちらをご参照下さい:WHO 本部ウェブサイト(http://www.who.int/ageing/age-friendly-environments/en/

 

日本の長寿者に学ぶ支援機器の利活用

 

背景

世界では10億を超える人々が支援機器(AT)を必要としています。ATは「ローテク」から「ハイテク」まで幅広い機器で構成されます。例えば、補聴器、眼鏡、歩行器、車椅子、コミュニケーション補助機器、記憶を補助する機器、補装具などがありますが、これらに限りません。ATを利用できる人の割合は非常に限定的で、全世界でみると10人中1人程度です。高齢者は慢性疾患の罹患率が高く、また加齢によるフレイル(虚弱)や障害も多いことから、福祉用具や補助器具を最も必要とする年齢層です。しかし、長寿者を対象としたAT利用者のデータや利用ATの種類、さらにAT利用者の経験に関する研究は限られています。世界有数の超高齢社会である日本は、このような研究ギャップに取り組むうえで他に類を見ない状況にあるといえます。

目標

日本の地域社会に居住する長寿者を対象とし、AT利用者の年齢、最も一般的に利用されているATの種類、さらにはAT利用者の経験の観点から、ATの利用状況に関する分析結果をまとめる。

研究手法

本研究は分野横断型、手法混在型です。定量的研究として郵送による予備調査を行い、その後、構造化質問紙を用いた面接による詳細な調査を行いました。参加者は、柏90スタディとSONICスタディ(70代、80代、90代の高齢者の調査を100歳以上の高齢者の調査と並行して行う健康長寿研究)という2つの調査からサンプリングしました。柏90スタディは、本研究プロジェクトが新しく始めたコホート研究で、千葉県柏市在住の90歳以上の高齢者を対象にしています。SONICスタディは2010年6月の開始後現在も進行中の前向きコホート研究で、関西地域(兵庫県伊丹市および朝来市)と関東地域(東京都板橋区および西多摩地区)で調査を行っています。収集データは、参加者の人口特性、健康状態、身体状況、認知機能および運動機能、心の健康、その他の関連情報です。定性的研究では、AT利用者の経験に関する半構造化面接を基にした綿密な聞き取り調査を行います。

研究成果

分析の対象とした郵送調査のサンプルは、柏90スタディとSONICスタディ合わせて2,477人の参加者からなります。参加者の年齢は88歳から106歳までで、そのうち100歳以上は2.1%でした。大半(98.7%)は何らかの種類のATを利用しており、機器の複数利用はきわめて一般的でした。参加者の約79%は3つ以上のATを利用していると回答し、また5つ以上のATを利用していると回答した参加者の割合は44.8%でした。最も一般的に用いられているATは、入れ歯(76.7%)、眼鏡等の装着型の視力関連機器(72.0%)、手すり(51.4%)、つえ(47.6%)などでした。インタビューから得られた定性的なデータ(94歳から100歳までの男性1人と女性4人)では、ATの利用は地域社会に居住する長寿者にとって、日常生活の動作に著しく有益な効果をもたらしていることが明らかになりました。

意義

本研究では、複数のAT利用が広く普及していることが示され、日本の地域社会に居住する長寿者が最も一般的に利用しているATに関する分析結果が得られました。この情報は、長寿者のニーズに合ったATの設計および処方に役立つことが期待されます。本研究プロジェクトの重要な成果は、新しい研究コホートである柏90スタディを立ち上げたことです。これは、日本の長寿者を対象としたATおよびその他の加齢に関連する課題について、今後の研究のデータソースになり得るでしょう。

高齢者の生活の質を高めるための 新しい支援テクノロジーの開発

 

背景

平均寿命(LE)が世界的に伸びる一方で、健康寿命(HLE)は同じペースでは伸びていません。したがって、状況によっては、人々は障害をもって長く生きることになります。LEとHLEとの差は、高齢者の身体的、精神的、および認知機能の衰えの進行に関連し、概して日常生活動作(ADL)および生活の質に影響を及ぼします。高齢者は筋肉の量と機能が進行性に低下する「サルコペニア」と呼ばれる状態に陥る可能性があります。これは地域社会に居住する高齢者の50人に1人の割合で現れます。運動不足はサルコペニアの形成を助長しますが、高齢者の場合は、疾病による寝たきりや障害の負担が大きいため、このリスクがさらに高まります。筋肉量と機能の低下は、筋力の減少や脆弱性の深刻化による転倒を引き起こし、その結果、骨折や障害、さらには死にもつながります。

身体能力の改善は機能的能力の改善をもたらします。高齢者にとって、身体機能の維持および改善は、ADLと生活の質を維持するうえで欠かせません。新しい技術が次々に生み出されるなか、高齢者の身体活動をモニタリングする可能性は高まりつつあります。こうした新たな支援技術により得られるデータや情報は、高齢者の身体活動を改善し、障害の進行を抑え、ひいては生活の質の向上をもたらすための計画づくりに役立ちます。

目標

研究の目標は、次の3つからなります。

  1. 高齢者のADLおよび歩行機能の維持に必要な身体活動量を算定する新たなアルゴリズムを開発する
  2. 転倒のパターンに関するデータをまとめ、転倒の頻度に関わる具体的な身体活動および姿勢のリスクを明らかにする
  3. 入院患者のリハビリの成果を向上させる最適な身体活動レベルを特定する

研究手法

本研究は3つのパートから構成されます。パートIは、20人の健康なボランティア(20歳以上)が参加するパイロット研究で、大腿前部の筋電図信号により身体活動を測定します。新しいアルゴリズムは、65歳以上の高齢者20人をサンプルとしてテストを行います。パートIIは、地域に居住する65歳以上の高齢者50人を対象とした観察研究です。転倒と身体活動のパターンに関するデータを、非侵襲性の認証済み加速度計を用いて記録しました。パートIIIは、6つの疾患に対してリハビリテーション療法を受けている20歳以上の入院患者を対象とした観察研究です。リハビリテーションの開始から連続して7日間にわたり、認証済み加速度計を用いて身体活動を測定しました。さらに、ポータブルの医療用体組成計を用いて体組成を測定しました。

研究結果

エルゴメーターを用いた運動および歩行中の筋電図信号と酸素消費量の二乗平均平方根の合計の間には、有意な正の相関が認められました。健康な被験者からは、身体装着型の加速度計の新しい応用プログラム開発のため、予備データの収集を行いました。入院患者を対象とした調査では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または心疾患により従来型の肺疾患または心臓病のリハビリテーション療法を受けていた患者に関しては、骨格筋量の増加は検出されませんでした。

意義

研究により得られた知見は、エネルギー消費量を推定するアルゴリズム、および入院患者の遠隔モニタリングシステムの開発に貢献することが期待されます。パートIIIの研究結果で示されたとおり、入院患者に骨格筋量の変化が見られないことから、現在の肺疾患および心臓病のリハビリテーションプログラムの再検討、また、新たな治療介入の探究が求められます。

超高齢社会日本のUHC持続に向けた 効率的な医療提供とは ~大規模ヘルスデータの二次分析~

 

背景

財源の乏しい国、豊かな国のいずれも、人口の高齢化と慢性疾患の罹患率増大による医療制度の持続可能性に関する課題に直面しています。特に大腿骨頸部骨折や認知症などの疾病は増加の一途を辿っており、それらを注意深く観察評価することで、医療へのアクセスと公平性の観点から医療制度の機能に関する洞察を得ることができます。近年注目されている医療ビッグデータは、その活用により人々の健康のパターンを理解し、ヘルスケアと公平性の向上に関連する政策に資することが期待されています。日本は、関連法や法律で規定されていないその他のメカニズムを通じて、大規模なヘルスデータベースを構築するために多大な努力を重ねてきました。例えば、診療群分類包括評価(DPC)、レセプトデータベース、包括的な介護保険データベース、副作用データベースなどが含まれます。しかしながら、公平で費用対効果が高く、質の良い医療サービスの提供のための政策に対し、これらのデータベースの活用は非常に限られています。本プロジェクトには、大規模なヘルスデータベースの使用に関するいくつかの研究が含まれており、日本の高齢化に関連する医療アクセスの公平性について、深刻化する課題への対応を目指しています。この研究概要では、DPCデータベース(医療保険請求のデータベース)の分析に基づいた事業の中から研究課題のひとつを取りあげます。

目標

  1. 認知症の程度と大腿骨頸部骨折手術へのアクセスとの関連を調査
  2. 急性期病院で股関節部位の閉鎖性骨折と診断された高齢者を対象に、認知症の程度と手術までの待機期間との関係性を調査

研究手法

この調査では、DPCデータベースの横断的な二次データ分析が行われました。データベースには、患者の属性、主診断、入院時の併存疾患、入院後の合併症、入院中の手術、薬剤、医療機器などの処置、入院日数、退院時の状態、医療費などの情報が含まれています。調査は、分析対象期間中(2014年4月〜2018年3月)に股関節部位の閉鎖性骨折と診断された65歳以上の患者を対象に行われました。アウトカム変数は、股関節骨折に対する外科的治療の受療と手術までの待機日数としました。主な説明変数は認知症の程度で、分析は、患者の年齢、性別、骨折の種類、併存疾患、昏睡/意識レベル、救急車の使用、および病院や地域の特性に関してマルチレベル分析を用いて調整されました。

研究結果

分析サンプルは、股関節骨折の初診断を受けた214,601人の患者で構成され、そのうち58,400人(27.2%)は軽度の認知症、44,787人(20.9%)は重度の認知症、159,173人(74.2%)は股関節手術を受けていました。手術前の平均待機日数は3.66日(±3.72日)でした。重度の認知症の患者は、認知症のない患者と比較して股関節手術を受ける率が高く、手術までの待機期間が短い傾向にありました。高齢の患者は手術を受ける可能性が低く(80歳以上対65〜79歳)、その一方で、手術前の待機時間は短いことがわかりました(90歳以上対65〜79歳)。

意義

この研究は、大規模なデータを採用して、ヘルスケアと公平性に関する重要な研究課題に取り組むことの有用性を実証しています。精神疾患のある患者は十分な医療を受けられないという一般的な傾向とは対照的に、この研究では、日本の認知症患者が股関節手術において優先される傾向にあることを明らかにしました。このようなアプローチは、拡大する人口の高齢化によりもたらされるヘルスケア関連の諸問題に対処するために、日本および他の地域での検討が求められています。

健康な日本の地域社会のための地域レベルの社会的イノベーション

 

背景

保健医療および社会ケアシステムの持続可能な財政の確保は、政策上の重要なゴールと見なされています。カナダや日本、ノルウェー、スウェーデン、スイスなど複数の高所得国では、施設での介護より、むしろ地域に留まり晩年を過ごすことが好まれる傾向があり、結果として地域社会に暮らす高齢者の数は増加しています。そのため、高齢者のニーズに対応するための、今までとは異なる調整や社会的ネットワークが必要とされています。 
地域レベルの社会的イノベーション(CBSI)は、高齢者のニーズへの対応となり得るイノベーションの一つの形です。先行研究および専門家会議により、CBSIの基盤となる原則が、次のように定義されました。高齢者の能力を、自ら自身のため、社会的包摂のため、そしてウェルビーイングの維持のために強化することです。このプロジェクトでは、世界的に最も高齢化が進み、85歳以上の人口が増加している日本において、CBSIの背景を研究しました。 
 

目標

日本におけるCBSI、その領域、どのようにして保健・社会的サービスと地域社会を結びつけるのか、それが与えるインパクトについて、より良い知見を得ることです。 
 

研究方法

  1.  兵庫県内の1都市、1農村と1漁村を含む、3地域での参与観察。
  2.  地方自治体職員と地域社会のリーダーに対する10件の半構造的インタビューと、地域社会の構成員による3回のフォーカスグループ討論。  
  3.  分析はグラウンデッド・セオリー(Grounded Theory)を使用して実施。

慢性疾患を抱える高齢者の生活の質や保健サービスの利用を最大限に向上させるサービス提供モデルの構築

 

背景

人口の高齢化が進むにつれ、高齢者の機能や生活の質(QOL)を最大限に向上させるため、保健サービスと社会サービスを高齢者向けに再編する必要があります。そのためには、高齢者のニーズに応え、求められる目標を達成するため、保健医療制度とサービス提供を、特に慢性疾患を抱える高齢者向けに、根本から変革しなければなりません。

Phase 1:2017年、高齢者のQOL を最大限に高めるサービスモデルの効果を検討したシステマティック・レビューを対象として、迅速なスコーピング・レビューを実施しました。特定された2238件のうち、条件を満たしていた72件において解析がなされました。総合的な高齢者ケア(身体的機能に重点を置く)と総合的緩和ケア(症状や不安に重点を置く)に大きく分類されたサービスモデルは、高齢者のQOL向上に効果を示しました。しかし、どのサービス提供モデルがどのアウトカムに寄与しているのか、また、資源が限られている低・中所得国(LMIC)の状況にどのモデルが適しているのかについては、結論が得られませんでした。

Phase 2:このため、このスコーピング・レビューの一次研究について詳しく検討します。

 

目的

Phase 2は、三次資料文献調査を通じて、慢性疾患を抱える高齢者のQOLの向上と保健サービス利用の最適化の両方を特定するサービス提供モデルの構築を、一次文献に戻すことにより提示することを目的とします。本研究は、臨床、保健医療サービス提供者、マクロ経済政策の環境という観点から検討するもので、様々な背景で機能するモデルに必要な要素を明らかにします。

 

研究手法

  1. 保健医療サービス提供者および医療サービスの提供に関する研究を専門とするチーム(キングス・カレッジ・ロンドン)、またはマクロ経済政策の環境および保健医療サービス提供者の研究を専門とするチーム(USC)の2チームが各々独立して、Phase 1のスコーピング・レビューで特定した一次研究を解析します。
  2. 高齢者の一連のケアを通じて、どうすれば求められるアウトカムを達成できるかについて明らかにするため、両チームが各々の専門性に基づき、サービス提供モデルやその要素、提供者、提供方法の間にあるつながりを同定・評価します。
  3. 得られた知見について情報交換し、共同報告書を作成するため、2020年の第1四半期にWKCによる専門家会議が開催される予定です。これにより、高齢者にとっての適切なアウトカムを達成できるサービス提供モデルの、臨床、保健医療サービス提供者、政策、制度の各要素を関連づけた構築が期待されます。

 

 

結論

Phase 1の研究の結果、目指すアウトカムは異なるものの、総合的な高齢者ケアまたは総合的緩和ケアに分類されたサービスモデルは、終末期に近い高齢者のQOL向上と症状改善に効果を示しました。患者のニーズや求めるアウトカムに応じたサービスの利用に関して、両モデル間に相乗効果が認められる領域は一連のケアで統合することが重要です。その拡張性には、ヘルスケアとソーシャルケアの両者を包含した経済学的分析や、健康格差の背景要因を把握するために、必要な財源の検討が求められます。

アジアにおける非感染性疾患の予防と管理に関して効果的な保健医療制度の効果に関するシステマティック・レビュー

 

背景

低、中、および高所得国にわたり、保健医療制度は、非感染性疾患(NCDs)および人口の高齢化の負担増大による課題に直面しています(1)。長期医療の管理に当たり保健医療制度が直面している課題には、経済的保護の欠如、必須医薬品への不十分なアクセス、訓練を受けた医療従事者の不足、慢性疾患治療の継続があります(1)。優れた保健医療制度の側面には、社会実験の実施、適切な戦略の選択、他国から教訓を得ることなどがあります(2)。日本は、一次医療制度の強化により、脳卒中や虚血性心疾患などの慢性疾患による死亡率の低下に成功しました。このような公共保健推進の取り組みの結果、1960年代以降、平均余命は伸びています(3)。本研究では、アジアの特定の国における、保健医療制度を効果的なものにするために重要な介入および方法をレビューしています。

目的

慢性疾患の予防と管理に関する保健システムの強化を目的として実施されているプログラムや政策の、費用対効果を評価することを目的とする研究です。

  • 東アジアおよび東南アジアにおいて、糖尿病、肥満、脂質異常症、高血圧の予防に対する地域社会の介入やヘルス・プロモーションにより、心血管系イベントと死亡が低減しているか?
  • 東アジアおよび東南アジアにおいて、糖尿病、肥満、脂質異常症、高血圧の予防に対する地域社会の介入やヘルス・プロモーションの中に費用対効果の高いものがあるか。

研究手法

アジア各国におけるNCDsの予防と管理に関する無作為化比較対照試験(RCT)および準実験的研究の査読付き論文を対象とするシステマティック・レビューを行いました。MEDLINE、コクラン・ライブラリー、医中誌で、検索可能な全期間の論文を対象にキーワードと件名標目を用いて、系統的に検索しました。対象は、地域社会の介入やヘルス・プロモーションが心血管系イベント(脳卒中、心筋梗塞など)および全死亡率に与える効果を報告している、および/または研究で行われた介入の費用対効果を報告している、英語または日本語で書かれた論文全文です。アブストラクトのみの論文、レビュー、開発、有用性、または実行可能性試験の論文、非アジア人のサンプルが含まれている論文、病院ベースの介入または対象がNCDs患者ではない介入についての論文は除外しました。

結果

研究の適格性評価のフローチャートを図1に示します。3,389件の研究のうち、12件のフルテキスト論文が選択・除外基準のすべてに合致しました。そのうち3件が日本、7件が中国/香港特別行政区、2件が韓国の論文です。4件の研究で、地域社会の介入やヘルス・プロモーションが心血管系イベントの発生率または死亡率に与える効果が調査されています。介入期間は21.5ヶ月から15年にわたり、高血圧、糖尿病、耐糖能障害、または肥満の患者が対象でした。全般的に、介入は、脳卒中の発生率、心血管疾患による死亡率、または研究によっては全死因死亡率の低減に効果がありました。8件の研究で、高血圧、糖尿病、および肥満の患者を対象とした介入の費用対効果が調査されています。これらの研究では、結果のタイプおよび評価方法の異質性に関わらず、費用対効果が一般的に認められました。

意義

レビューにより、基礎疾患(NCDs)やそのリスクファクターを有する患者を対象とした、地域社会の介入やヘルス・プロモーションの心血管系イベントの発生率および死亡率に対する効果に関する調査そのものが、東アジアおよび東南アジアにおいて著しく不足していることが明らかになりました。従って、既存の知見からエビデンスに基づいた意味のある政策提言を導き出す可能性は制限されており、さらなる調査の拡充の必要性が示唆されます。

 

参考文献

1. Hunter DJ, Reddy KS. Noncommunicable Diseases. New England Journal of Medicine. 2013;369(14):1336-43. doi: 10.1056/NEJMra1109345.

2. Balabanova D, Mills A, Conteh, et al. Good Health at Low Cost 25 years on: lessons for the future of health systems strenghening. Lancet. 2013;381:2118-33.

3. Ikeda N, Saito E, Kondo N, et al. What has made the population of Japan healthy?. Lancet. 2011;378:1094-105.

 

出版物

Hirashiki A,  Shimizu A, Nomoto K, Kokubo M, Suzuki N, Arai H, Systematic Review of the Effectiveness of Community Intervention and Health Promotion Programs for the Prevention of Non-Communicable Diseases in Japan and Other East and Southeast Asian Countries. Circulation Reports 2022; 4: 149-157. doi.org/10.1253/circrep.CR-21-0165

終末期の高齢者の生活の質を最大限に高めるサービスモデル:スコーピング・レビュー

かつてない速さで高齢化が進む現代、加齢によって徐々に進む機能低下に適応しながらも、高齢者が充実した生活を送るためには保健サービスと社会サービスの再編が国際的にも重要視されています。

本研究では、終末期の高齢者の生活の質を最大限に高めるサービスモデルに関するエビデンスを包括的に集約しました。検討対象は各国の保健、社会、福祉サービスとし、特に低・中所得国に注目しました。

 

手法                                                                           

本研究ではシステマティック・レビューを対象とした迅速なスコーピング・レビューが用いられ、MEDLINE、CINAHL、EMBASE、Cochrane Database of Systematic Reviewsに登録されている2000~2017年発表の文献を検索し、参照検索で補足しました。そして、高齢者の生活の質を最大限に高めるサービスモデルの有効性を検討したレビュー論文の中から、サービス提供の対象集団の50%以上が60歳以上で、サービス提供が最期の1~2年とされているレビュー論文を選定しました。検索結果は個別にスクリーニングし、選定されたレビュー論文の質をAMSTARに基づき評価、ナラティブにデータの記述、集約を行いました。

 

結果                                                                                  

検索したレビュー論文2238件中、72件(Cochraneレビュー9件を含む)が条件を満たし、総計784,983人のデータを検討しました。地域的には南北アメリカ(52/72)、ヨーロッパ(46/72)の研究が多数を占めました。これらのレビューで生活の質の向上を目指すサービスモデルを1)身体機能に重点を置く総合的な高齢者ケアと、2)症状や不安に重点を置く総合的緩和ケアに分類しました(図1)。両モデルが目指すアウトカムはそれぞれ異なりますが、共通する要素には「人中心のケア」「サービス利用者と提供者への教育」「多職種によるサービス提供」などがあげられます。レビューでは117のアウトカムが特定され、そのうち21%がメタ解析された結果、生活の質(4件中4件)、個別の症状(5件中5件)への効果が示されました。全体的に経済学的分析はあまり行われていませんでした。

 

結論                                                                          

目指すアウトカムは異なるものの、総合的な高齢者ケアまたは総合的緩和ケアに分類されたサービスモデルは、終末期の高齢者の生活の質の向上と症状改善に効果を示しました。両者に共通する要素が存在することからも、分類を越えたサービスの融合と患者のニーズや求めるアウトカムに応じたサービス提供の必要性が強調されました。今後への提言としてはヘルスケアとソーシャルケアを包含した経済学的分析や、健康格差の背景要因を理解するために必要なあらゆる財源の検討などがあげられます。

図1. 終末期の高齢者の生活の質を最大限に高める包括的なサービスモデル